稲沢市議会議員 しちおう ブログ

不登校を経て、作業療法士として病院に勤務、現在は稲沢市議会議員として活動する「しちおう」のブログです。

プール死亡事故の教訓〜行政視察in東京・静岡〜

こんにちは。横綱昇進を決めた稀勢の里と同い年のしちおうです。

先進地の事例を学ぶ、行政視察に行かせてもらいました。行き先は、東京都多摩市と、静岡県掛川市。内容を報告します。

 

⒈東京都多摩市〜公契約条例〜

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初日のテーマは、公契約条例。…ふむ、最初から聞き慣れない言葉が出てきました。いかにも難しそうなので、例題を挙げて簡単に説明します。

 

公、つまり行政はさまざまな業者と契約を結びます。たとえば、図書館の業務を業者に代わりにやってもらうとします。本の管理や職員の給与などから、大体いくらかかるのかを推定し、募集をかけます。目安以上の条件を提示したA社がやることに決まったとすると、行政はA社にお金を払います。A社はその中から、職員のお金など図書館運営にかかるお金を支払います。

【行政】月100万円払う→【業者】職員に月10万円×5名で50万円+本の管理などその他費用で30万円、残り20万円を自社の儲けにしよう。

 

ここで職員に払われるお金を、行政は決めることができません。もしかしたら、A社が悪い会社で、行政が想定したお金の一部をピンハネして自社の利益にすることもあり得ます。正社員並みの時間働いても給与が少ない“ワーキングプア”になってしまうかもしれません。

【行政】月100万円払う→【業者】職員は月5万円で、本の管理も手を抜けば20万円でできるし、残り65万円を自社の儲けにしよう、ぐへへ。

 

公契約条例は、そんなワーキングプアを防ぐために「公共施設で働く労働者に対して、最低基準額以上の賃金を払うよう取り決める」条例です。それ以外にも、“ダンピング”と呼ばれる採算を無視して業務を安売りし、事業を自社のものとする行為を止めさせる仕組みでもあります。

 

市民には関係が薄いのでは?と思われるかもしれませんが、最終的に不利益を被るのは利用者(市民)です。約10年前に、こんな事件がありました。みなさん覚えてますか?

 

埼玉県ふじみ野市の市営プールにて、小学生が流水プール内の吸水口に吸い込まれ死亡。その後の捜査により、ふじみ野市から管理委託(公契約)を受けていた業者は、下請け業者に仕事を丸投げ。プールの監視員は研修や指導を受けておらず、泳げない監視員もいた。吸水口の蓋も故障に気付いていたのに針金でくくることで済ませ、充分な措置を行ってなかった。

 

市は業者へ、業者は下請けへ、責任を丸投げしていたことで起きた痛ましい事件。業者のみならず市の職員も罪を問われることとなりました。背景には、低料金で業務を受注した業者が、監視員の配置や保守管理を怠り、行政もチェック機能を果たせなかったことがあげられます。

 

これを防ぐため、市発注の工事・委託等に携わる労働者の賃金、労働条件の低下を防止することで、①労働者は生活が安定、②業者は適正な競争による経営の安定、③市民は安全かつ良質なサービスの享受を受けられることを目指した条例。まさに、三方よし!

 

 

具体的には、賃金の最低基準を設けて賃金を保障。労働状況を行政がチェックし、業者らとも共に問題点・改善点を話し合う場を設けていました。最初、さまざまな団体から猛烈な反発を受けたそうですが 、粘り強く交渉と活動を続け、数年後には約9割の業者が導入の成果を感じられたそうです。

市民も良質なサービスを受けられ、たとえば「給食を民間に委託することで質が落ちるのでは?」という不安にも、「公契約条例によって防止されているので大丈夫」と安心感を得られているようでした。

 

私も今回の視察をキッカケに、当市で進んでいない公契約条例に対する議論を深めていく必要性と、手がかりを学ぶことができました。

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⒉静岡県掛川市生涯学習まちづくり土地条例〜

掛川市ではなんと、議員の方がお出迎え。

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名前入りのストラップも頂きました。なんて温かい街なんでしょう。

庁舎も20年前に建てられたものですが、今まで見たどの役所よりも素敵な場所でした。

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開放感のある吹き抜けの造り、どこでも職員の働く様子が見えて職員と市民が共同でも使えるスペース、お茶の名産地らしい給茶器(掛川深蒸し茶は絶品でした)

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二日目のテーマは、生涯学習とまちづくりを合わせた条例です。

掛川市は新幹線の開通により土地の売買や乱開発が進み、統一感のない虫食い状態のような土地利用・まちづくりになってしまいました。「自分たちの土地を、どうしていきたいのか」を市主導ではなく、市民主導で、まちづくりを考えていく。その全てを生涯学習にしようという取り組みです。

 

住民・地権者・業者・転入者・市の全てに利益がある(5共益5良質体制)を目標に、500回以上、延べ1万3000人(人口の約15%)が参加した説明会や検討会を実施。土地所有者の8割以上の同意を得るという高いハードルを超えて、無闇な土地の売買や乱開発を予防しました。

 

掛川市ではお城の再建もやったそうですが、その際にも生涯学習でまちづくりを学んだ経験は生き、みんなでお金を出し合って(今で言う一口城主やクラウドファンディング)、自分たちでまちを作る精神を発揮されたそうです。

 

トップダウンで「これやってね」と言うよりも、何倍も手間と時間がかかる話し合い。しかし、それを乗り越えたことで、金銭では換えられない住民の意識改革が行なえたのだと感じました。

議場も、議員席と傍聴席が1mないくらい近く、「共同でまちづくりを行なう」という思いが込められていました。

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居心地良いのか、蜂もお気に入りの場所らしい。

 

今回も大変勉強になった視察でしたし、今後の提言に生かしていきます。参加させて頂き、ありがとうございました。